Rokin'on JAPAN 92年7月号 
市川哲史の「今月で最終回だ!」酒呑み日記36 
呑みたいけど書きたくない、の巻 

 4月26日日曜日 渋谷・割烹居酒屋→同・バー→同・安居酒屋 
(♪わーすれちゃったわーすれちゃったまっかなばーらーがー)。 
 ストロベリー・フィールズのセイシローと渋谷駅モアイ像の前で待ち合わせする。 
おい、恥ずかしいんだけどなあ。とにかくセイシローに霊が憑いた話が今夜の議題なので、 
私は護符代わりに井上貴子を持参する。何せ私、山伏に以前「あんたは守護霊がおらん」と 
言われてるからなあ。無防備だからなあ。損した気になるのは何故? 
 ある日部屋に戻ると、風も無いのに部屋の中に掛けた服がゆらゆら揺れてるのを発見。 
その後半年、毎日毎日揺れてる状況にさすがに怖くなったセイシローは、引越しを果たす。 
「これでもう大丈夫」と安心して新居に入ったその日、ふと見るとまた揺れてるのだ。 
「ええかげんにせーよーっ」。ベースを投げつけても怒鳴っても、几帳面に揺れ続ける服で 
あった。そしてとうとう数日前に霊媒師のお世話になって、ようやく解決した。 
成仏した霊は自殺した21歳の妊娠中の女の子で、京都のライヴでセイシローに憑いたらしい。 
何でも波長が合い、「この人なら何とかしてくれる」と信頼されたのがそもそものなれそめ、 
いや事の発端だったのだそうだ。今もセイシローの部屋の四方には御札が貼られており、 
「井上さんは入り口より中へは入れないでしょうね」との事である。正しい。 
 そういえば先日ラヴミサイルと呑んだとき、ドラムの栗田も凄かったなあ。彼の実家は 
地鎮祭をせずに建てたが為に、霊の宝庫と化してるらしい。昔泊まりに来たアマチュア時代の 
タイジが金縛りに遭ったという話も、なかなか感慨深い。その為か栗谷には信仰癖がつき、 
デビューが決まった時は弁天様に祈願に行ったという。青木は青木でキング・オブ・縁起かつぎと 
自称するだけあって、移動バッグの中から6つもお守りを出して自慢する。だから俺には 
守護霊は居ないんだってば。 

 4月27日月曜日 渋谷・大型居酒屋→同・大型安洋風居酒屋(むひょ〜の谷啓)。 
 デルジベットの打ち上げ。ライヴにはちわきまゆみやイエモンの吉井が来てたのだが、 
皆忙しいらしく打ち上げ会場にミュージシャンの姿は無かった。「珍しいなぁ」と思いながら 
呑んでいたら、いつの間にか下山淳が大きい顔して呑みまくってるではないか。「あれ?」 
「いや、店の前を通りかかって勘で入ってみたらISSAY達が居るからさあ」。全然説明に 
なってないと思う。 
 2軒目に移動すると、下山の生来の資質が蠢き始める。背を向けてるISSAYに何本も割り箸を
投げつけ(俺も演ってたけど)、挑発に乗って側に座ると、延々因縁をつけまくるのだ。 
「渋谷の街をナパーム弾で焼き尽くしたくなるんだなー」とISSAYが言うと、もう止まらない。 
「馬鹿! 馬鹿かおまえ。ナパーム弾を使うには飛行機から落とさなきゃ駄目なの。 
どうすんの」「……だったら飛行機チャーターすればいいじゃんっ」「馬鹿! 馬鹿かおまえ。 
飛行機だと投下した後すぐ通過しちゃうから、燃えてるとこが見えないの。どうすんの?」 
「……」「俺なら田無の浄水場に青酸カリ投げ込むわ」「……自分も水呑めないじゃん」 
「馬鹿! 馬鹿かおまえ。南アルプスの天然水を買い込んどきゃいいじゃん」。一生やってろっ。 
 ちなみに井上は体操座りをしてるとこを咎められ「馬鹿! 馬鹿かおまえ。暗黒話を 
書く奴は体操座りしちゃいけないの」と痛めつけられていた。下山淳、未だ健在である。 

 5月5日火曜日 名古屋・庄内緑地公園(缶ビールが沢山沢山)。 
 未だ私がブレーンとしてスタッフロールにクレジットされ続けてる中京テレビの人気番組 
『5時SATマガジン』毎年恒例の野外ロック・イベント「LOVE ROCKS」観戦に行く。今年は 
バイセクシャルにダイ・イン・クライズにストロベリー・フィールズにルナ・シーに 
レディース・ルームと密室系化粧型深夜美学バンドが勢揃いし、シメには筋少とすかんちが 
居るという、私が行かざるを得ない布陣だ。何せドピーカンの屋外、しかも強風が吹きまくり、 
先頭のバイセクは朝11時に演奏開始である。うーん、この違和感は凄まじい。どのバンドも 
似合わんぞお。浮いてるぞお。 
 2番手に登場したデッド・チャップリンは、異常な上手さと貫禄で圧倒的に不利な状況にも 
拘わらず、会場を盛り上げる。ラウドネス時代の曲を披露され、ルナ・シーが狂喜乱舞してる。 
出番が終わるとどっから調達したのか、缶ビール呑みまくりだ。あのー、スポンサーが清涼飲料水 
メーカーなんでマズいのでは。「市川さんも呑むでしょ?」と二井原。はいもうグビグビ。 
二日酔いでさっきまでゲロ吐いてたSUGIZOが「俺も呑む!」とローディーを調達に走らせ、 
缶にガムテープで偽装して呑み始める。うーん、さすがこざかしい美学男である。 
 レディース・ルームに飛び入りするトシは、私を見つけるなり「俺の“大阪で生まれた女”は 
絶品ですからねえ」と自分に酔う。おいおい、だからと言ってステージで本当に唄うなよ。 
 ストロベリー・フィールズはレジーナが巨大な羽根飾りを頭と尻に付けてるが、強風に 
自ら飛ばされようとしてるのか? 
 すかんちは小畑だけ来ない。何でも朝一人だけバイクで東京を出発したらしいのだが、 
途中「バイクが故障した」との連絡を最後に消息を絶ってしまった。結局出番をズラして
かろうじて間に合ったが、到着した小畑は一言、「洒落にならんわー」。 
 筋少に至っては、橘高とマネージャーが来ないのである。大槻以下4名、自力で会場入りだ。 
「すかんちよりも来てない人数が多い分、ウチが勝ってるでしょ?」。大槻、嬉しいか? 
二井原のオヤジッ、酔い潰れて白昼から寝るのはよしなさいって。 

 というわけで、連載三周年、いや連載三周忌を機に皆様に御愛顧頂いたこの「酒呑み日記」も、 
今月で終了ですわ。今井とヨシキによるテーマソングのCD化が休止してるのは心残りですが、 
とりあえず疲れてしまいました。相変わらず酒は呑み続けますが――お、今またバクチク軍団から 
誘いのTELがかかってきたあ!――日記化するには呑み以外にエネルギーを費やさねばならんので、
結構疲れるんですわ。読者の事考えて酒呑んでられっかーいっ。さようなら。 
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