市川哲史の「大」酒呑み日記28 
(櫻井敦司、YOSHIKI表紙 ロッキンオンジャパン91年11月号) 

9月3日火曜日 六本木・パブ→恵比寿・屋台 
→都内今井宅(♪よーろろろれいひい〜)。 
朝3時に櫻井VSヨシキの対談は終了。ヨシキがフォーカスの痛手を 
負っているので、開き直って忘れさせる為に徹底的に 
呑むことにする。そんな不毛な事演る必要は無いのだが、 
何せ何の縁も無い今井が自宅で(電話)待機しているのだから、 
行くしかあるまい。どかーんどかーんどかーん。 
まず今井の元気の良さが目につく。そりゃそうだ。 
コイツはさっきまで寝て体力を蓄えてたのだから。 
 場は市川哲史批判で盛り上がる。「何で俺らだけ呑んでる時の 
恥ずかしい事書かれて、市川さんの自分の事は出てこないの!?」。 
ヨシキの糾弾に私が余裕を持って答える。 
「私は作者、君達は素材。そもそも俺が知っている事洗いざらい 
書いてもいいのか?」「ひょえー」「私の温かい配慮に感謝しなさい」 
「……」。そういう事なのである。 
 朝6時頃、屋台に移動する。ヨシキは初体験なだけに、新鮮なようだ。 
7時過ぎ、例によって通勤通学の人波が大挙として屋台の横を 
洪水のように通り過ぎていく。Xとバクチク、2バンド合わせて 
150万枚のスーパースターに当然、誰も気づきはしない。 
「歩く自意識」ヨシキが黙っていない。「畜生! この車によじ登って 
『俺はXのヨシキだー!』って叫んでやるっ」。死んでも知らんぞ。 
結局朝9時半に散会。「凄く」元気な今井に私だけ逃げ遅れ、 
今井の家に着くと同時に地蔵と化したのであった。 
目が覚めたら夕方4時、今井は横でこれまた地蔵している。 
こりゃ会社は遅刻だろうなあ。当たり前か。 
ちなみにヨシキはこの日のスケジュールを全てキャンセルしたそうである。 
もしもどっかで取材が飛んでたら、一応謝る。 

9月12日木曜日 恵比寿・バー→六本木・パブ 
(バーボン1本 ビール4 知らない酒)。 
今井&藤井対談を軽く呑みながら恵比寿のバーで終了させると 
もう次の展開は読めている。「バーっといきますか」。 
普段の今井なら「いきますか」なのだから、今日は気合が違うのだろう。 
私は覚悟を決めてたので平気だが、藤井が「明日までにライブ用の 
打ち込みを6曲入れなきゃいけないので失礼します」 
と毅然とした姿勢を見せる。 
「いつも森岡にノルマを課して、ケツ叩いて演らせてるので、 
自分が締切守んないと二度と言えなくなっちゃうんですよ」。 
ソフバも厳しいのである。 
 今井といつもの六本木に移動すると、取材終了後6時間自宅待機 
していた星野が合流する。星野は前日、ロック・ミュージシャンらしからぬ 
プードルを購入し、既に異常に可愛がり始めているのだ。 
ほとんど水商売のお姉ちゃんのノリだが、今井と2人強引に 
「犬の名前を”ジュピター”にしろ」と勧める。 
初の自作曲シングル抜擢記念という、おせっかい以外何物でもない理由づけだ。 
星野は既にCoCoなどという名前をつけたようだが、 
我々は一致団結してその犬を一生ジュピターと呼ぶ事にした。 
泣いてる星野はこの際ーー無視しよう。 
 この日最大の収穫は、「酒呑み日記」テーマソング製作決定か。 
今井が曲を10月31日までに書き、このコラムに登場した人間を 
DAT持って私が訪ねて、何らかの形で参加させるという 
超アマチュア・レコーディングである。発表の手段がない。 
そんなもん後から考えるぞ。『DANCE 2 NOISE 002』に入れるとか、 
ジャパンの付録にソノシート付けるとか無責任な企画が 
続出しているが、まあもしも実現したら盛り上がって下さい。 
ちなみに曲タイトルだけは既に決定しており、”無限酒”といいます。 

9月15日=敬老の日 新宿・ライブハウス貸切→西麻布・バー 
(NAON NO YAON5打ち上げの為、誰も酒量測定不能)。 
 という事で、呑み屋女だらけである。私は15分程遅れて 
行ったのだが、既に酔いどれ奴がいる。竹内志磨である。 
この日ロージー・ロキシー・ローラー、Jaco:neco、プリ2の富田京子、 
「本物」山本リンダと共に謎のレオタード・バンド 
「セックス・ドライヴァーズ」を組んで喝采を浴びていたのだが、 
挨拶しながらもう酔っ払いマイク?んで”北国の春”を 
熱唱しているではないか。ほえ? 
とっ捕まえて早すぎるご乱心の理由を訊くと、「すかんちって 
ギャグで盛り上げるバンドとたぶん思われているやろなあ、 
っていう使命感のプレッシャーに酔っちゃったあ」。 
貰い泣きしていいか? その後もテーブルにあがって一人拳を 
突き上げる竹内を止める私を、「大丈夫ですか?」と 
優しくフォローしてくれた富田嬢を一生忘れはしまい。はい。 
 ステファニーの不気味な日本語による酔っ払い状態も変だ。 
SYOW-YA勢は妙に平常心を保ち、五十嵐に至っては 
「今日は市川さん、シマちゃんの面倒見なきゃいけないんだからね」。 
とのたまって、いつの間にか姿を消している。ありゃ? 
 その代わりなのか何なのか、仙波は珍しく饒舌で陽気、 
角田はニコニコ呑みまくる。方やアマ時代からの長い付き合いのJacoは、 
名古屋人魂が炸裂してロザとデビルがほとんど女名主的に場を仕切っていた。 
そして予定調和の如く、グレースの占いにベルベット・パウ達が 
殺到している。しかしグレースと目が合った瞬間、我々は全力で 
抱擁しなければならん掟に4年前からなっている。 
「哲っちゃーん、元気ー!?」。人は我々の姿を、いつしか 
「ロック界の左四つ」と呼んでると聞く。結局、シマちゃんのマネージャーは 
「じゃ市川さん、後はヨロシク。明日1時に川崎チッタに来るように、 
よぉーく伝えといて下さい」と言い残して去る。おーい。 
よく考えたら、俺今日呑んでにぞほとんど。乗り遅れたぁー! 
 と無念がっていたら、全日本プロレスの超新星、アジャ・コングと 
バイソン木村の登場だ。きゃっほー。もうミュージシャンなんか 
どうでもいいぞ! この日オープニング・アクトで 
キャンディーズ&ピンクレディー・メドレーを唄った後、試合場に直行、 
「軽く勝って」の再登場なのだ。群がる女連中を押しのけて、 
素早くアジャの隣に座ると女子プロレス界の現状をあれこれ訊く。 
その超ワイルドな容姿と金網デスマッチすら制覇するパワフルな 
ファイト・スタイルとは裏腹に、凄く真面目で自分の立場と将来まで 
冷静に分析しているではないか。知的なお嬢さんだぞー。 
ぁぁ、来て良かったあ。 


おまけ・市川哲史の「大」美学日記 
(9月2日篇)『思春期II』マスタリング中のスタジオに、 
インタビューに出かける。築地なのだが、疲弊しきっている私は 
タクシーで向かった。ちょうど昼休みで会社員やOLでごった返す 
雑踏の中を一人極楽トンボみたいな格好をした奴がのうのうと 
歩いているではないか。昆虫グラサンに光りもんの緑の昆虫ジャケット 
――勤労に汗しろよな、いい若い者が。窓から唾を吐きながら 
スタジオに到着するとISSAYがまだ来てない。 
はい、オチはご想像の通りです。乗せてやりゃよかったな。 

(9月3日篇)撮影前櫻井のメイクルームに行くと、珍しく事務所の社長がいる。 
何事かと思ったら、櫻井が週に3日通い同棲してて結婚間近という、 
例の『微笑』スキャンダルの件だ。「またですか」 
「皆さんそう言うんですけど、アレ俺じゃないんです」「ほえ?」。 
私は見てなかったのだが、慌ててみたら確かに遠目には似てなくもないが、 
これは明らかに櫻井ではない別人である。豪快な人違いである。 
「仕返ししねえと気が済みませんよ」。 
ぉぉ、櫻井がヨシキになったぁっ。 
 一方ヨシキはというと。撮影直後になってメイクルームに 
閉じ篭ってしまった。やがて出て来ると、異常に暗重い。 
「トシがフォーカスされちゃったー」。櫻井が慰める光景もまた 
不気味である。「でも俺なんか人違いで『微笑』だよ?」 
「それならまだいいよぉ」。何だかなぁ、である。 
「こうなったら元気よく写真撮ってやる!」。はい、どうも。 

(9月12日篇)定時10分前に着いたら、なんと今井が既に到着し 
メイクまでほぼ終えているではないか。「どうした今井?」 
「今の俺に話しかけないで下さい」。単にこの男、ウチの前の取材に 
大遅刻してその準備をしているだけだったのだ。遠藤ミチロウとの 
対談らしいのだが、ミチロウを待たせているとはイイ度胸している。 
単に情けないという話もあるが。 
 まず星野の撮影+インタヴューが終わる。「これからどうするの?」 
「1回家に帰ってから、呑みに行く時合流します」。燃えるな燃えるな。 
今井+藤井の撮影はご覧の通り、肉体オブジェ化計画がコンセプト。 
ところが二人共異常に身体が硬い。立位体前屈測定してみたら、 
今井25cm藤井20cmも床に届かない。うーん、 
さすが、テクノ世代っつって何の根拠があるのだろうか。 
 セットチェンジの待ち時間、暗黒箱庭美学収集家の本誌・バタイユ井上が 
藤井からボンテージの講習を受けて嬉しがっていた。 
「あの、森岡さんの超食い込みパンツって後ろから眺めていたら 
凄いんでしょうかね」「裸のお尻と一緒ですから……それを目の前で 
プルプル振られたりしたら本当、後ろから蹴り落としたくなりますね。 
君は正しい。 
 結局没になったのだが、スタジオの天井付近から俯瞰で二人を撮る 
ショットも実はあった。15m程度の高さだろうか。 
バタイユ井上が「自分も登りたい」と言い始め、実際登ってしまう。 
しかし通路かは下から丸見えの隙間だらけの代物、ロングスカート 
とは言えコイツは露出狂なのか? するとそれまでクールに 
佇んでいた藤井が突如井上の下に走り寄り、「パンツ見えたぁ!」 
とハシャぐではないか。おーい、過激王子ィー。 

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