1991年5月 ROCKIN'ON JAPAN 市川哲史の「大誕生日記念」酒呑み日記 22 今日はB-Tとすかんちだけ。沖縄ロケもあるよ、の巻 鈴木慶一氏は酒呑み日記を愛読してるという。光栄なのだが、今回取材で 1年振りに逢ったら「年齢制限はあるのかなあ」と独り言のように漏らしていた。 出たいなら出たいと素直に言ってくださいよお。では今月も行きます。 3月16日土曜日 恵比寿・中華料理屋 (ビール10杯 紹興酒1本) 私の誕生日である。すかんちの取材日である。実は私の人生も所詮ちまちました ものだったのかもしれない。何で虚しくなるんだーっ。撮影中にすかんちから バースデーケーキを贈って貰い、13年振りに蝋燭の灯を吹き消させて頂いた。 ありがとね。撮影終了後は中華宴会。実はシマちゃんと呑みたがってた SHOW-YAのサンゴも来る筈だったのだが「友達の結婚式を忘れてた」と没、 筋少の橘高も他誌の取材の関係で没である。となると異常に呑める奴はシマちゃん だけだ。ははは、紹興酒が空いた。寺西は顔面蒼白でWCに籠もってるし、小畑は 気持ち悪いぐらい脂っこい中華を食いまくってるし、何か悲しくなってくる。 田中は減量中という事で、ピータンとお粥しか食おうとしない。そこで甘言を弄して 大好物のシューマイを1個食わせる度に「食いよった、食いよった」の大合唱で 非情に田中を突き刺す小畑とシマちゃんに、またまた人生を感じるのであった。 3月17日日曜日 那覇・ステーキ屋→ディスコ→ディスコ→バー (バーボン4本 生ビール7杯) 別に沖縄まで行ってバクチクを取材する必然性など、何も無いのである。 シーサーや守礼門の前や万座ビーチで撮影するわけじゃないんですから。繁忙な ツアー日程を鑑みて苦しい東京と余裕ある沖縄の2パターンに絞られたのだが、 予測通り今井の「沖縄に来なきゃ嫌だ」攻撃に遭い、みすみす南海酒呑み地獄の 罠にハマリに行くのであった。 この日は今井&アニィのインタヴューが終了すると全員でメシへ。無限酒仙道の 幕開けだ。前日は鹿児島で爆発したらしく口数少ない。2軒目になるとモータウン・ バーと言いながらも延々ヒップホップ大音量攻撃を受け、何も話す気が起らない。 沈黙のままボトル2本が空く。3軒目に至っては遂にマハラジャのVIPルームと なるが、フロアに客は3人しか居ない。桜井が地蔵化した側でやはり呑むしかない。 そして4軒目、気がつけば私と桜井と今井だけだ。桜井と真面目に今後のバクチクの プロモーション戦略を討論してたら、私が地蔵になっていた。傘地蔵の民話みたく 眠ってる私に上着をかけてくれた桜井に、私は米俵担いで恩返しせねばなるまい。 朝6時に私はホテルに帰ったが、二人はその後カラオケスナックに行き、ラーメン 食って8時半に帰ったという。沖縄だというのに東京の再現しかしてない私達は、 一体何処のどいつなのだろうか。 3月18日月曜日 那覇・ステーキハウス→クラブ→ディスコ→バー (ははははは、という酒量) この日は撮影行脚、まず国際通りから裏道に入った安呑み屋街で撮影。歩いてたら 奇妙な洞穴を発見し、ここで撮ろうとするが近づいたら今井が突如「駄目っス俺」と 言って走り出す。不審に思い覗いてみると、花束が供えられている。防空壕だった のかあ。今井の臆病体質もたまには役に立つ。ロケ車に戻ると、たまたま近所の 弱小レコード屋さんのオバサンがサインを求めてきた。彼女は我々を目撃した後、 商品の『悪の華』を持ち出してきて顔を必死で照合していた。それもまた人生だ。 その後那覇から車で50分離れた金武に移動する。米軍基地の前に約2百m四方の 規模で、50年前の米国の港町が映画のオープンセットみたく広がっているのだ。 居るのは米兵とフィリピ―ナのみ。ヌードショー演ってる店の目白押しで、街全体が 薄暗い。そんな店の壁の前に2人を立たせて撮ってると、中からフィリピン姉ちゃん 達が「○!ゞ〃仝〆...☆」と日本語とタガログ語と英語の合体言葉で叫びながら 飛び出て踊る。デカい黒人がラップを唄いつつこちらを指さして何か言ってる。 「俺達の事馬鹿にしてんですかね?」と葛藤するアニィを横目に今井は――― この男は今何を考えているのだろうか。ゆっくりと我々の前を通過する車の中を ふと覗いたら、米国人が拳銃に弾を詰めていた。「怖えー!早く帰って呑みますか?」 ハルマゲドンが起きても、今井だけは生き残ると思う。 その夜も呑みまくったが、クラブは店自体が暇らしく、女の子13人が来襲する。 星野は女の子に挟まれて動揺をきたし、緊張のあまり目が虚ろだ。例によって無口な 今井と桜井は、「この人怒ってるのー?」と女の子達に恐れられている。やはり 即座に馴染んでたのはアニィか。高笑いしながら盛り上がってる様は、ほとんど どっかの親父なのだから。「市川さんもたまにはイイ目して下さいよー」、 アンタに言われる筋合いはありません、星野。 3月20日水曜日 練馬・寿司屋→今井宅 (バーボン1本 ビール10杯 日本酒6杯) 沖縄であれだけ酒付けになったにも拘わらず、今日は私の誕生祝を催してくれた 今井&桜井&ユータである。ケーキもプレゼントもありがとね。星野という男は バンド内でどうやら玩具になってるらしく、ここじゃ書けないような目に遭っている。 生体反応が無いから苛めたくなる気持ちよくわかる。ツアー中、メンバーは全員 偽名で宿泊するわけだが、星野の偽名だけ目茶苦茶にしようと意見が一致する。 候補名は「机」「2百ペソ」「歩く」等々。星野がチェックインする度に 「あのー2百ペソですけど」と生真面目に名乗ってる姿を、私も心から見たいと思う。