ROCKIN'ON JAPAN １９９１年２月号 市川哲史の「大」酒呑み日記 １９ 東京！大阪！上尾！悪夢の新日本紀行、の巻 「忘年会シーズンですからね、こりゃあもう１頁必要でしょ！」。 鹿野がさも当然といった笑顔で話しかけるが、年末進行で今日はまだ 平成２年１２月１０日だ馬鹿。今から忘年会演ってる阿保が何処に居る？ こうなったら２月１６日発売の３月号で“さよなら１９９０年歳忘れ 酒呑みヒットパレード・ゆく年くる年特集”演ってやるからな。 ははは。ああ。 １１月２６日月曜日 上尾・居酒屋→ショットバー→山奥・小川宅 （ビール５ バーボン２６） 渋谷から銀座線で上野まで出、宇都宮線で各駅停車に３０分も 揺られ―――ああここは東大宮だあ。今日はキヨシと約１年振りに 深酒する為だけに、ここまで来てしまった。レッド・ウォーリア―ズ 時代、私はキヨシの人生相談のカウンセラーとしてデロデロダラダラ の深酒地獄巡りを繰り返してただけに、パンツと靴下と歯ブラシを 持参してたとて誰にも責められまい。久宝瑠璃子のライブ・ベーシスト しか演ってないキヨシだが、入院１回長期通院１回と体を壊しまくって たのだから仕方無い。でもこれだけ呑めりゃ大丈夫大丈夫。酒は百薬の 長なのだから―――本当か？それにしても２軒目は凄かった。数百種の バーボンが揃い、内装も六本木並の雰囲気を醸し出してるのに、ママと 女の子がやはり上尾のスナックだ。突如女の子が下手なピアノで “踊るポンポコリン”を弾き語りしちゃうし、ママはお好み焼や ワンタンメンを何故かタダで食わせてくれる。私とキヨシの素性を 知った３０歳前後の客の男は、急に姿を消したと思ったら家から ギターを持って来てわけわかんない唄をじゃかじゃか吠える。 呑むぞ馬鹿野郎。泥酔した我々は「キヨシのファン」と自称する これまた怪し気な女を三和銀行上尾駅前支店のシャッターに ４，５回激突させてトドメを刺し、歩行するお地蔵様となって 早々に去った。 その後、キヨシ宅で三度呑むも、巨大なトトロの縫いぐるみを 抱え「とーとろとーとろ」とゴロゴロするトトロの親玉のような キヨシを見て、私は一人地蔵様から脱出するしかなかったのだった。 １２月１日土曜日 大阪・すき焼き屋→バー→パブ （こりゃもう量などわかりませんや酒） 相変わらずの唯我独尊的我儘によって、私はダイヤモンドユカイ 大阪厚生ライブを観てしまった。「何しに来たの」じゃねーだろ、 ユカイ。お前が誘拐してきたんだろーが俺を。という事で打ち上げに 参加、本格的な関西すき焼きである。私は岡山出身なので関東風の 汁ビチャビチャすき焼きが大嫌いだ。しかし！exツイストの 松ちゃんが我々の鍋に砂糖を大量投下して無責任にも逃亡。 「甘過ぎるよー」と最も料理音痴なユカイが、皆の制止を振り切って 醤油と酒を物量作戦よろしく絨毯爆撃だあ。キーボードの三国さんと 胸やけを堪えつつ無残な鍋をつつくが、ふとユカイを見ると生卵を ご飯にかけて食っている。「気持ちが悪いからさ、このすき焼き」 あげくの果てが胃薬飲んで「ホテルに帰るわ」。おめーなー。 修羅の群れと化した我々はex４４マグナムのJOEをも巻き込んで 他人の鍋を徹底的に爆撃し、正気を取り戻したら私はローディーに 肩車されて難波の待ちを走り回ってたのであった。俺は何しに 新幹線に３時間１０分乗って来たんだよお。 １２月３日月曜日 都内・今井宅 （黒ビール６ バーボン１０） 前日今井から誘いTELを貰ってたのだがやんごとなき事情で 断っちゃってたから、深夜２５時にTEL。「待ってますよ」。 時間軸が歪んでる。今井宅に到着すると、「今髪の毛染めて るんで」と待たされたが、おお今度は濃いオレンジ色かい。 それにしても自分で染めてるのね。ミュージシャンも自給自足 体制かあ。出来上がったばかりの新譜『狂った太陽』を聴きながら ぐびぐび呑む。「俺１曲だけ、超自信作があったんですけど没に されちゃって。『没ゥ〜？』って。何が何だかもうわからなく なっちゃって」。未だバクチクの民主主義は健在なようだ。 と言いつつもグジグジグジグジと、その後単なる「小言地蔵」 と化した今井を、もう私は笑って眺めるしかないのであった。 ぐじぐじ。 １２月５日水曜日 西麻布・バー （はははは、大量の♪紅〜茶のお酒を） 今夜はフェアチャイルドのパーティーだ。TV CMでお馴染の シングル“探してるのにぃ”ヒット記念で、皆で「紅茶のお酒」 を呑むという―――うわ、こりゃ殺人的な甘さじゃないのか？ 横で沈着冷静な戸田誠司が「今日は紅茶のお酒しか呑まないですよ」 と開き直ったように大量消費してる。私はこっそりバーボン呑んで ました。「ヒットしたっつってもさー。１７位だからさー、 恥ずかしいよねこのパーティー」と傍観者的に爆笑してるYOUは、 一体何者なのだろうか。まあ「大」ビンゴで私はディスクマンが 見事当ってしまったので、全て許す。