ロッキンオンジャパン 1989年8月号 (表紙レッド・ウォーリアーズ) 市川哲史の酒呑み日記1―半分ゼルダ、の巻 私は酒が大好きである。ミュージシャンにも酒呑み友達は多い。 この2つの偉大なる事実から生まれた結論――酒呑みながら取材したってイイだろっ。利己的で安直である。 6月13日火曜日 南麻布・焼肉屋 (ビール8、キリンレモン1) 新作のレコーディングで死にかけてるゼルダをスタジオに急襲、サヨコとアコを連れ出して呑みに行く。 前のマネージャーが私の予備校時代の連れだったり、数年前の大晦日だったかトークライブで共演したりと 付き合いはかなり長いのだが、何故か一緒に飲んだ事が無い。 「ウチって打ち上げやってもらえないからじゃない?」とアコは笑って分析するが、おいおいそれは貧乏なだけだ。 どうも酒が進まない。私もアコもビールは嫌いなのだ。しかし店にはビールしかない。 サヨコに至ってはキリンレモンで沈黙。スタジオでは異常なまでのトランス状態を見せ、 徹夜続きでぐったりしている私に拷問の如く新譜のデモテ聴きを強要し、ご丁寧にスローな曲では照明を消して、 「大人の気分で聴いてみない?」とライブそのままにぎこちないMCと踊りまでもれなくついてきた。 気分はすっかりピンサロ、私の方が赤面してしまったのに――静かなのだ。 何か粗相でもしたかとちらりと見れば、涙を流しながら山盛りキムチで丼飯を食べていた。 サヨコは下戸だあ!――1回目にして酒呑み日記は崩壊しているぞっ。 一方アコは怒涛の饒舌でひたすら走る。最初は珍しく音楽の話に徹していたのだが、やがて年齢相応の話へと展開する。 友達が皆結婚していくっ――彼女の場合コンピュータ関係の学校出で周りがOLばっかだから、披露宴出席も避けられまい。 まさかステージ衣装じゃ非常識なんで、最も普通っぽい在庫を着てくと「芸能人なんだからド派手にしてよ」と責められ、 更に宴進行の中で必ず唄を強要されるらしい。それも持ち唄を弾き語りで。ドラマーだから叩き語りか? 派手な披露宴だと思いきや、彼女は「最も無残な」”黄金の時間”をピアノで弾き語りしてるそうだ。 人生いろいろだな――深く感慨してみたものの、あの曲はどう考えても男を追っかけ回す詞だった気がするんだが。